千葉科学大学誘致10年目の中間決算
(創立十周年記念文集に掲載された原稿)
前銚子市長/弁護士/岡山理科大学客員教授
野平匡邦
Ⅰ 大学“設置”理念と誘致の経緯
1 加計学園の決断
平成13年11月末。加計孝太郎副理事長から携帯電話が鳴った。「銚子市に千葉理科大学を設置したい。協力して下さい。」これが千葉科学大学誘致事業の始まりだった。
その頃国家公務員の私は,親友たちから翌夏の市長選挙に立候補を要請されていた。平成の大合併,人件費改革(後述の“トリプル78”問題)の公約の他に,大学誘致は好適な選挙用テーマだが,理解者は少ないと危惧された。
翌年判明した加計学園の進出3条件は,今から振り返って整理すると,
①校舎建築費補助 93.5億円~120億円
②校地 15ヘクタールを寄付
③校地の基盤整備 15ヘクタールを市費で公共整備
だったが,他大学との競争の都合等もあり,学園が開学を1年前倒しする都合が生じ,
①校舎建築費補助 77億5千万円
②校地 寄付でなく長期無償貸付
③校地の基盤整備 学園負担
に落ちついた。
2 銚子市の決断
私は,市財政に負担能力ありと判断した。大学誘致の損得の展望と都市経営哲学は,以下の内容だった。
① 定住人口の増加と若年人口の補強
都市経営競争の勝負は,若者人口の獲得で決まるとは,霞が関の官界や全国市町村長の常識だった。市が経営リスクを負わない私立大学は都市経営上ほしい魅惑的な施設だ。歴代銚子市長の共通公約だったが,誰も実現できなかった。
② 煙と公害のない誘致工場
雇用効果を期待して一部議員が主張した工場誘致は,既に時代遅れだった。近年の茂原市や館山市の事例のように閉鎖時の影響と被害は破壊的・破滅的だ。
③大学は地域資源活用の起爆装置
特異な地域資源の活用こそが銚子市の活路だと私は考えた。大学があれば可能だ。
a成田空港
b銚子有料道路の無料化と活用
c銚子電鉄の存続
d銚子マリーナ地区遊休地の活用
④市財政をむしばむ構造問題(“トリプル78”)の同時改革
a多額の職員人件費78億円
b過剰な職員数1200人
c高額な給与単価(ラスパイレス指数全国20位104.2%と不適切な調整手当の支給)
平成14年当時の市財政の構造的病巣―“トリプル78”―の克服経過
H14野平市長就任時 | 4年後H18目標の達成度 | 10年後H24目標 | H24決算実績 | 成績評価 | |
1 市税収納率 | 78% | 81%達成 | 90% | 85% | ◎ |
2 市税収入額 | 78億円 | 80億円達成 | 90億円 | 86億円達成後82億円に後退 | △ |
3 人件費総額 | 78億円 | 74億円達成 | 58億円 | 60億円 | ◎ |
差 引 | 0億円 | 6億円達成 | 32億円 | 22億円 | △ |
Ⅱ 補助金の財源捻出と市債発行許可の攻防
1 交付税つき地方債の許可は,以下の難航の末に成功した。
①拠点都市整備事業債(交付税措置不明) 国会運用抑制決議で不可
②地域活性化事業債(交付税措置30%) 県が推奨したが不許可
③一般単独事業債(交付税措置なし) 県許可・市返上(H15)
④地域再生事業債(新設)(交付税措置あり) 許可・発行(H16・H17)
2 市債発行許可条件(総務省大臣官房・自治財政局裁定)に合格
①銚子市の広域的拠点性と高等教育の政策実績⇒合格
②大学設置が市の政策⇒合格
③若者流出対策事業の必要性⇒合格
④域内高等教育の需要⇒合格
⑤市の補助金支出の財政能力⇒合格
⑥当該学校法人の経営能力と地方展開の実績⇒合格
⑦大学教育内容の公共性と公益性⇒合格
⑧圧倒的市民が大学誘致を承認(住民投票や選挙)⇒合格
⑨市議会・県・周辺都市の理解⇒合格
Ⅲ 大学の地域経済効果の評価判定
1 現在,大学誘致の評価をどう測るか。
①大学道路等市内の景観や文化・教育の変化
②地域の戦略産業(福祉・医療・雇用・建設業の受益)
③市側の大学経営リスク
④若者人口獲得効果
⑤受益者は誰か-銚子市財政と地域と市民
2 地域経済財政効果はいくらか。
最終評価は市民が下すべきだが,市内若者の入学比率の向上,市役所職員の高学歴化(特に消防職員),想定外のジオパーク指定効果の他,以下の年間消費額を評価して,これで損だとは到底言えない。年月がたつほど決算黒字は拡大する。大学がない銚子市の経済はどうなるか。絶対に失ってならない地域産業であり,知の宝である。
①年間消費支出額 H24決算35億円+学生生活費推計11億円=合計46億円
②市財政直入効果 普通交付税単位費用収入 2億1千万円
③水道(加入金・上下水道料金)
④アパート・マンションの固定資産税・都市計画税
⑤住民登録した教職員の源泉市民税徴収額
⑥大学行事の際の地域経済効果(旅館・食堂・土産屋等)